1. 建設業の経営環境はなぜ厳しくなっているのか
1-1. 建設業の倒産件数が増加している背景とは
近年、建設業の倒産件数は増加傾向にあります。
東京商工リサーチの調査によると、2025年の建設業倒産件数は2,014件となり、4年連続で前年を上回りました。12年ぶりに2,000件を超えるなど、建設業を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。また、建設投資そのものは一定規模を維持しているにもかかわらず、多くの企業が厳しい経営環境に置かれていることが分かります。
ただし、この数字だけを見て悲観的に捉える必要はありません。倒産件数の増加は「建設業の仕事がなくなった」というよりも、「経営環境が大きく変化している」ことの表れと言えるでしょう。
これまでと同じやり方では利益を確保しにくくなり、経営の難易度が上がっていることが背景にあります。特に専門工事会社の場合、元請け企業の発注状況や地域の工事需要に影響を受けやすいため、市場環境の変化を正しく理解することが重要になっています。
【出典】東京商工リサーチ「全国企業倒産状況」
1-2. 資材価格・人件費の上昇が利益を圧迫
経営環境の変化を語る上で欠かせないのが、コスト上昇の問題です。
ここ数年、鋼材や木材、セメント製品をはじめとする建設資材の価格は上昇傾向が続いています。さらに、物流コストやエネルギー価格の上昇も重なり、多くの企業が原価増加の影響を受けています。
加えて、人手不足による人件費の上昇も大きな課題です。技能者の確保競争が激しくなる中で、給与や待遇の改善を進める企業も増えており、人材確保にかかるコストは以前より高くなっています。本来であれば工事価格へ反映したいところですが、すべての案件で十分な価格転嫁ができるとは限りません。
その結果、売上は維持できていても利益率が低下し、経営を圧迫するケースが増えています。
1-3. 人手不足と働き方改革で求められる経営の変化
さらに建設業界では、人材確保そのものが大きな課題になっています。
国土交通省の資料によると、建設技能者の高齢化は継続して進んでおり、若年層の入職促進は業界全体のテーマとなっています。経験豊富な人材が減少する一方で、新たな担い手の確保は簡単ではありません。
また、2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。これまでのように長時間労働で工程を調整することが難しくなり、限られた人員で品質・安全・工期を維持する必要があります。
つまり現在の建設業界は、「受注さえできれば良い時代」から、「利益を確保しながら持続的に事業を運営する時代」へと変化しているのです。
【出典】資料:国土交通省「参考資料集」
資料:厚生労働省「建設業 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
2. 専門工事会社を取り巻く市場環境はどう変わっているのか
2-1. 新築中心から改修・維持管理の需要へシフト
建設市場では、工事需要そのものにも変化が見られます。
人口減少や新築着工数の変化を背景に、地域によっては新築工事の競争が以前より激しくなっています。一方で、既存建物の長寿命化を目的とした改修工事や大規模修繕工事、設備更新工事などの需要は今後も拡大が見込まれています。実際にマンションやビル、公共施設では老朽化対策が大きな課題となっており、維持管理や改修に関する市場は今後も重要性を増していくと考えられています。
こうした変化を踏まえると、従来と同じ市場だけを見るのではなく、新たな需要にも目を向けることが重要です。
2-2. 取引先依存のリスク
専門工事会社の中には、長年取引のある企業から継続的に仕事を受注しているケースも少なくありません。信頼関係のある取引先は大切な存在ですが、一方で特定企業への依存度が高くなりすぎると注意が必要です。
例えば、大型案件の終了や発注計画の変更があった場合、自社の受注量にも大きな影響が及ぶ可能性があります。また、担当者の異動や組織再編など、自社ではコントロールできない要因によって状況が変わることもあります。
既存取引先との関係を深めることはもちろん重要ですが、それと同時に新しい取引先との接点を増やしておくことも安定経営につながります。
2-3. 営業活動の変化
市場環境の変化に伴い、受注の考え方も変わりつつあります。以前は「まずは仕事量を確保する」という考え方が主流でした。しかし近年は、工事件数が増えても利益が残らないケースも珍しくありません。
資材価格や人件費が上昇している現在では、自社の強みを活かせる案件や適正な利益を確保できる案件を選択することが重要になっています。安定経営を実現している企業の多くは、単に受注量を追い求めるのではなく、利益率や継続性も重視しながら営業活動を行っているのです。
3. 仕事が途切れにくい会社は何が違うのか
3-1.取引先の分散
安定した受注を実現している企業に共通する特徴の一つが、取引先の分散です。工務店、ゼネコン、リフォーム会社、管理会社など、複数の発注元との関係を構築することで、一つの案件や一社の動向に左右されにくくなります。
また、さまざまな企業と取引することで施工実績の幅も広がり、新たな受注機会につながるケースもあります。受注を安定させるためには、目の前の案件だけでなく、中長期的な取引先ネットワークを構築していく視点が重要です。
3-2. 自社の強みを積極的に発信
新しい取引先を開拓する際、発注側が最も知りたいのは「どんな工事が得意なのか」です。防水工事、塗装工事、設備工事、内装工事など、専門分野が明確な企業ほど発注側も相談しやすくなります。そのため、施工事例や対応エリア、保有資格、施工実績などを整理し、自社の強みを積極的に発信することが重要です。近年はホームページやSNS、マッチングサービスなどを通じて情報収集する企業も増えており、情報発信の重要性は以前より高まっています。
3-3.営業活動の安定化
安定受注を実現している企業は、繁忙期でも営業活動を継続しています。工事が忙しくなると、どうしても営業活動は後回しになりがちです。しかし、仕事がある時期に営業を止めてしまうと、閑散期に入った際に受注先が見つからず苦労することがあります。
一方で、日頃から情報収集や関係構築を続けている企業は、受注が落ち着いた時期でも新しい案件につながりやすくなります。受注の波を完全になくすことは難しくても、営業活動を継続することでリスクを分散することは可能です。
4. これからの時代に求められる取引先開拓とは
4-1. 「紹介待ち」だけでは受注が安定しない
建設業界では、紹介や人脈を通じた取引が今も重要です。しかし、市場環境が変化する中で、紹介だけに頼る営業スタイルには限界もあります。
紹介が発生するタイミングはコントロールできず、景気や発注状況の影響も受けます。そのため、紹介を大切にしながらも、自ら新しい接点を作る取り組みが重要になっています。受け身の営業だけでなく、能動的に取引先を開拓する企業ほど受注機会を広げやすい傾向があります。
4-2. 展示会や業界イベントの活用
新しい取引先との接点づくりとして、展示会や業界イベントも有効な手段です。発注企業と直接話ができるため、自社の強みや施工実績を伝えやすく、信頼関係の構築にもつながります。また、業界動向や新しい技術情報を収集できる点も大きなメリットです。単なる営業活動としてではなく、市場の変化を把握する場としても活用することで、新たなビジネスチャンスにつながる可能性があります。
4-3. 建設業向けマッチングサービスも選択肢に
近年は建設業向けのマッチングサービスを活用する企業も増えています。従来の紹介営業では接点を持てなかった企業とも出会いやすくなり、効率的に新規取引先を探せる点が特徴です。特に、自社の対応工種やエリアに合った案件を探しやすいことから、営業人員が限られている企業にとって有効な手段の一つとなっています。これからは、人脈や紹介に加えてデジタルツールも活用しながら受注機会を広げていくことが重要になるでしょう。
5. まとめ|変化する市場環境の中で安定した受注体制を構築するために
建設業界では、資材価格や人件費の上昇、人手不足、働き方改革への対応など、さまざまな経営課題への対応が求められています。こうした背景から、建設業の倒産件数は高い水準で推移しており、多くの企業が経営環境の変化に向き合っています。
しかし、その一方で安定した受注を維持しながら成長を続けている企業も存在します。そうした企業に共通しているのは、既存取引先との関係を大切にしながらも、新たな取引先との接点づくりや情報収集を継続している点です。
また、受注量だけを追い求めるのではなく、自社の強みを活かせる案件や適正な利益を確保できる案件を増やすことで、持続的な経営基盤を構築しています。
今後も市場環境の変化は続くと考えられますが、重要なのは変化に対応できる受注体制を整えることです。取引先の幅を広げ、新しい出会いを増やしながら、自社に合った営業活動を継続していくことが、安定経営への第一歩となるでしょう。
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