マンションの大規模修繕にかかる費用の基礎知識
マンションの大規模修繕にかかる費用は、一般的に修繕積立金が充てられます。しかし、マンションの規模や構造によって修繕箇所が異なるため、費用総額はまちまちです。
大規模修繕を行う上での費用に関する基礎知識を解説します。
大規模修繕に欠かせない修繕積立金とは?
「修繕積立金」とは、今後の大規模修繕に備えてマンション購入時から計画的に積み立てるお金のことです。大規模修繕の実施時の資金源となります。
修繕積立金は、マンションの管理組合員である区分所有者によって毎月一定の時期に金額が積み立てられます。
各住戸の専有面積に応じて金額は決定され、一般的に広い部屋ほど積立金が高額になるのが特徴です。
大規模修繕を実施する際は、工事計画をもとに算出された費用計画に沿って修繕積立金が使用されます。
マンションの大規模修繕にかかる費用相場①
・工事金額の目安
国土交通省の資料によると、初めてのマンション大規模修繕工事時にかかる工事金額は「4000~6000万円」が最も多いことが分かりました。
また同調査では、2回目の大規模修繕工事は「6000万~8000万円」、3回目は「6000万~8000万円」と「1億~1億5000万円」の割合が最も多いという結果が出ています。
大規模修繕にかかる費用は、工事した回数により変動します。一般的に、1回目よりも2回目の大規模修繕工事にかかる費用が高くなる傾向です。
出典:「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(国土交通省)
マンションの大規模修繕にかかる費用相場②
・1戸あたりが負担する工事金額の目安
大規模修繕工事において1戸あたりが負担する工事金額は、およそ75万~150万円がボリュームゾーンです。
国土交通省の調査では、1戸あたり「100万~125万円」が全体の27.0%を占め、次いで「75万~100万円」(全体の24.7%)、「125万~150万」(17.4%)となります。
出典:「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(国土交通省)
2回目以降の工事金額のほうが高くなる理由
2回目以降の大規模修繕では工事が大がかりになります。なぜならマンションの劣化の進行が著しく、補修や交換が必要となる施工箇所が増えるからです。そのため、1回目の大規模修繕のコストよりも高額となる傾向があります。
加えてマンションの住民による設備改善の要望により、単なる修繕だけでなく設備の追加やグレードアップなどの改善工事を行うことがあります。下記は要望として挙がりやすい箇所なので参考にしてください。
- 集合郵便受け
- 宅配ロッカー
- 掲示板
- エントランス
- エレベーター
- マンションの外壁や鉄部
近年は物価・人件費の上昇が続いている影響で、マンションの大規模修繕にかかる費用がより高騰化する傾向にあります。建築資材や設備を新調する工事費、工事の人件費・管理費がさらに高くなっているので見積書をよく見て内訳を確認した方が安心です。
マンションの大規模修繕工事の流れと期間
マンションの大規模修繕の進め方は大きく2つあります。
- コンサルタントや管理会社、施工会社に委託して進める
- 管理組合の主導で進める
どの進め方を選択するかによって工事の流れが異なります。大規模修繕工事の基本的な流れをステップごとに、どのくらい工事期間がかかるのかを解説します。
マンションの大規模修繕工事の大まかな流れ
1.修繕委員会の発足
修繕委員会とは、大規模修繕の準備を進めるためマンションの管理組合からの提案を受けて発足される組織です。
大規模修繕の計画を立案・管理するほか、住民からの意見やクレームを汲み取る役割を担っています。大規模修繕をスムーズに、かつ居住者目線で進行するためにも重要な組織です。
あくまで計画の立案・管理に関わるメンバーであり、工事の決定権は管理組合の代表者で構成されるマンション理事会に委ねられます。一般的にはマンション理事会の決議により修繕委員会が発足されます。
修繕委員会はマンションの居住者をメンバーとするのが一般的です。規模の大きい管理組合では、設計事務所やコンサルティング会社に委託し外部専門家を起用する傾向があります。
2.現状の把握や劣化具合の診断
修繕する工事内容を決定したり期間・費用といったコストを見積もるために、まずはマンションの現状の把握や経年劣化の状態を診断します。
建物の図面や修繕履歴をチェックした上で目視・打診調査を進めるのが一般的なやり方です。また居住者へのアンケート調査を並行し、居住者目線での改修箇所を検討します。
下記はマンションの経年劣化による影響を受けやすく、特に新築時の状態を維持しにくい箇所です。重点的にチェックしてください。
- タイルの欠損
- 壁のひび割れ・塗装の剝がれ・色褪せ
- シーリングの経年劣化
- 雨漏りによる漏水、防水の経年劣化
耐震診断やコンクリートの強度調査、シーリング材の物性試験など、専門的知識を要する建物診断は大規模修繕専門店や施工会社に相談するのがおすすめです。
現状把握・劣化診断は大規模修繕工事の内容を検討する為に必要なだけではありません。たとえば、長期修繕計画の見直しを行う25~30年を経過したタイミングで活用できます。重大な修繕箇所が発覚した場合は、工事期間・費用を確認の上、長期修繕計画に反映させてください。
3.工事計画や予算の検討
マンションの現状や劣化診断の結果をもとに、大規模修繕のガイドラインとなる工事計画を設計します。具体的には下記の項目ごとに情報を整理します。
建築に関する工事計画
…工事の足場を設置する仮設工事や、外装補強・タイル補修・金物工事・シーリング工事・防水工事など、建物の改修工事内容と見積もり。
設備に関する工事計画
…水やガス、電気設備・共用部分の設備、機械式駐車場設備など、設備の改修工事内容と見積もり。
資金計画
…工事費用の見積もりに対し、修繕積立金から使用する予算の算出。
工事費用の見積もりに対し使用可能な修繕積立金の額が不足する事態となった場合は、工事内容の見直しや一時的な積立金額の増額、借入を検討する必要があります。
4.施工会社の選定
工事計画や予算に合う施工会社を探します。選定時は以下のポイントを重視して検討してください。
- 大規模修繕の実績があるか、直近でどのような工事を実施しているか
- 見積もりは各項目が分かりやすく算出されているか
- 中間マージン費用が多すぎないか
- 工事中の安全対策は万全か
- アフターフォローや保証は充実しているか
- 現場所長の人柄がよいか、コミュニケーションがとれる環境にあるか
大規模修繕を行う施工会社は必ずしもマンションの建築業者と一致している必要はありません。また大規模修繕に取り組む際、管理組合・マンション理事会・区分所有者から業者の紹介を受ける場合があります。
重要なことは、予算内で工事計画通りに大規模修繕を実現できるかどうかです。全面的に理事に委ねるのではなく、冷静な判断で適正な業者を選定してください。
5.総会での決議
大規模修繕の施工会社と工事内容、予算を書面にまとめ、マンション管理組合の総会で決議にかけます。
決議の方法は工事内容で異なり、小規模な工事であれば普通決議により大規模修繕の決定が可能です。修繕内容の規模が大きくなると、さらに決議の条件が厳しくなる特別決議にかけられます。
普通決議と特別決議の違いは以下の通りです。
~普通決議~
区分所有者の過半数の承認が必要となる。決議内容により条件が緩くなるケースがある。
下記のようなケースは普通決議にて決定する。
- エントランスに防犯用のカメラを設置する
- 経年劣化したシーリングの工事を行う
- 階段に手すりを設置する
~特別決議~
区分所有者の3/4以上の承認で、さらに議決権総数の3/4以上の承認が必要となる。
建物の建て替え時にはさらに承認条件が厳しくなる。
下記のようなケースは特別決議にて決定する。
- 共用部分の増築
- バリアフリー化によるエレベーターの外付け
- 駐輪場の設置
6.工事説明会の実施
マンションの居住者および外部に住んでいる区分所有者向けに、工事期間・内容・防犯体制・居住者への協力要請内容を伝える場が工事説明会です。選定した工事業者が主催となり、マンションの大規模修繕工事の着工前に実施されます。
バルコニーやエントランス、廊下といった共有部分に業者が立ち入ることで居住者が不安に感じることのないよう、工事の概要を説明し理解を得ることが目的です。
7.契約と工事の着工
マンションの管理組合の決議がとれたら、施工会社と工事請負の契約を交わし工事着工となります。
工事着工前の準備として、工事中の足場を設置する仮設計画を施工業者に相談しながら設計します。各部屋のバルコニーや窓から中が見える外壁に足場を設置する可能性があるので、居住者への配慮をもって計画に組み込んでください。
また外壁の補修が工事内容にある場合は、タイルや外壁塗装の塗料や仕上がり色・デザインについて事前に施工会社とすり合わせます。外装デザインはマンションの資産価値に紐づきますので、塗装工事の前に区分所有者へアンケートを行い意見収集しておくのがおすすめです。
あわせて工事中の騒音・車両トラブルを防ぐために、近隣への挨拶・周辺環境に異常がないかのチェックを怠らないようにしましょう。
8.工事の完了確認と引き渡し
工事が完了すると足場を解体する前に完成検査(竣工検査)を実施します。完成検査は施工業者のほか、マンション管理組合や理事会の代表、設計監理に関わる設計コンサルタントが同席し、修繕箇所を確認するのが一般的です。
再度の手直しを終え、問題ないことがチェックできたら完了書面を受け取って工事終了です。主に下記の資料を受け取りますので、次回の大規模修繕の参考資料として保管してください。
- 工事完成届、工事完了確認書
- 工事引渡書
- 完成図面や仕様書、仕様変更書
- 各戸の補修確認書
- 社内検査、完成検査の報告書
- 工事施工計画書
- 各種保証書
- アフターサービスの覚書
- 工事した箇所の記録写真
- 打ち合わせの議事録
マンションの大規模修繕にかかる工事期間の目安
大規模修繕の工事期間は約4~6か月程度かかります。マンションの規模や工事内容により工事期間が変動します。
マンションの総戸数が50戸未満の場合は約3~4か月、100戸程度の場合は約6~8か月が目安です。
出典:「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(国土交通省)
マンションの大規模修繕工事の周期
大規模修繕の修繕周期は一般的に12~15年周期です。
大規模修繕工事の回数が増えるほど、修繕周期の年数は短くなる傾向があります。具体的には1回目の平均修繕周期が15.6年、2回目が14.0年、3回目が12.9年です。
建物の経年劣化状況がひどい場合は周期がさらに短くなる場合があります。また、区分所有者・マンション居住者からの設備新調や改修要望も、修繕周期が変動する要因です。
出典:「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(国土交通省)
マンションの大規模修繕で起こりがちなトラブルと対処法
マンションの大規模修繕では、複数の修繕箇所をタイトなスケジュールで対応していくため、予期せぬトラブルや課題に直面するケースが見受けられます。
マンションの大規模修繕で起こりがちなトラブルの種類と、その対処法を紹介します。
修繕費用の不足
大規模修繕の着工前に工事計画と予算を策定します。しかし、大規模修繕を実施していく中で新たな修繕箇所が見つかったり、長期の工事期間中に管理組合あるいは施工会社の体制が変わったりする場合があります。
建物の経年劣化状況や修繕組織の体制変更に応じて工事内容・期間の見直しが必要です。見直した結果、工事費用がかさむと修繕費用が不足するトラブルに発展します。
修繕費用の不足に対する主な対処法は、資金を増やす、あるいは工事費用を減らすことです。
資金を増やすには、区分所有者に事情を説明し、一時的に修繕積立金を追加徴収したり修繕積立金を値上げしたりします。金融機関からの借り入れが期待できる場合は、借り入れた金額を修繕に充てる方法で対処可能です。
工事費用を減らすには、工事内容が必要最低限になるよう見直しましょう。施工業者と相談し、建物の調査や診断を入念に行って、工事の範囲や内容を明確化しましょう。
近隣住民とのトラブル
大規模修繕は、マンションの居住者および近隣住民の生活圏内で実施されます。そのため、施工内容によってはマンションの居住者・近隣住民からのクレームに発展し、ひどいときには工事継続が困難になりかねません。
具体的には、下記のようなトラブルに発展する場合があります。
- 工事音がうるさい、朝方の騒音で眠れない
- 工事中の振動が気になる
- 工事中にほこりがまう
- 工事車両や作業員が出入りして通行できない、駐車できない
- 施工業者がバルコニーに入ってくる、窓から中が見えて不安だ
近隣住民とのトラブルを回避するには、工事前に挨拶やお知らせの配布を行い、工事期間・工事する時間帯・工事の内容を徹底的に周知しておくのが重要です。事前に理解を得るために、着工前の説明会にできるだけ参加してもらうよう呼びかけてください。
また、施工業者に騒音や振動の低減、ほこりの防止、工事車両や作業員の管理を徹底してもらうよう伝えておくのがおすすめです。業者選定時に居住者や近隣住民への配慮としてどのような策が講じられるか、事前に聴いておきましょう。
近隣住民から苦情・クレームがきた場合は、迅速に対応し謝罪や説明を行います。苦情・クレームがきた旨を施工業者や管理会社と共有し、連携して再発防止の対策を講じてください。
空き巣による被害
大規模修繕の工事内容によっては、作業のための足場が外壁やバルコニーの近くに必要です。工事のために設置した足場が侵入経路となり、空き巣被害を引き起こす可能性が危惧されます。
また大規模修繕の工事期間中は、施工業者をはじめ不特定多数の人がマンション内を出入りします。盗難や紛失が起こりやすいため十分注意が必要です。
対策としては、防犯カメラや人感センサーライトを設置する方法が有効です。経年劣化による補修・修繕に加えて、工事期間中の防犯施策を工事計画に盛り込みましょう。
また、不特定多数の人間が出入りするのに対して外部の人間と施工業者を判別できるよう、作業員にはカラーベストや腕章の着用をお願いするのがおすすめです。
マンション居住者や近隣住民には工事期間中の防犯を呼びかけ、ドア・窓の施錠やカーテンの閉め忘れ防止を促します。
大規模修繕を円滑に進め、マンションを住みよい場所に!
大規模修繕は、住みよいマンションの環境づくりに重要な長期的取り組みです。
区分所有者から収集した修繕積立金を有効に使えるよう、綿密な修繕計画と適切な施工業者選定、マンション居住者および近隣住民への配慮を意識して取り組みましょう。
大規模修繕が初めてで単独で進めることに不安を感じる場合は、大規模修繕専門の業者や設計コンサルタントに委託することをおすすめします。
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